あさひまち展示館第1回公開連続講座「にいがた学のすすめ」2003/03/21  

 

近代の科学・技術の礎 ー旧制学校時代の実験器具からー

              工学部委員 原田 修治

機能材料工学科 教授

 

 

T はじめに

 新潟大学の前身である「旧制新潟高等学校」「旧制長岡高等工業学校」時代の『教育の理念』を今日に伝える資料がここに展示する「実験器具」であり,現有する資料は大きく4つの部分から構成されている。

 

@「旧制新潟高等学校の心理関係の資料 約 38点」    人文学部心理管理    (鈴木)

A「旧制新潟高等学校の物理関係の資料 約100点」    旧教養部物理管理    (本間)

B「旧制長岡高等工業の物理関係の資料 約170点」    工学部旧共通講座管理(原田)

C「同高等工業の機械要素部品関係の資料約17点」    機械システム工学科管理  (新田)

 

U 博物館の設置に向けて

 平成6年の大学改組の中,工学部並びに教養部の旧物理関係教員の間で,旧制学校時代の実験器具・装置の取扱が議論され,歴史的に重要と判断される資料に関しては,「展示公開等を通じて物理教育の変遷の歴史を整理する」との方針が了承された。その後,狭隘さの中で一部の資料を廃棄せざるを得ない苦渋の状況もあったが,活用できるものや保存に値する備品に関しては,極力管理保管することに努めてきた。

 現在,工学部旧共通講座が管理する資料件数は小物を含め約170点,また旧教養部の工学系教員が主に管理する資料は概数で100点程度ある。これらの資料の特徴は,「旧制の両学校の間で類似・共通する物品が極めて少ない」という点にある。このことは,工学部の前進である旧制長岡工業専門学校と理学部の前進である旧制新潟学校の物理教育の理念に大きな差異があったためと想定される。こうした事情は旧制長岡工業専門学校から継承されてきた機械要素部品に関しても同様である。

 

V 博物館の構想

 旧制時代の実験器具・装置,機械要素部品等の資料の公開を行う中で,旧制新潟学校と旧制長岡工業専門学校の物理教育の理念と目標を歴史的に整理し,現在に至る教育の理念の変遷や,将来の教育の理念の方向を検証したい。

 すなわち,大正8年創立の新潟高等学校の初代校長八田三喜は『自由,進取,信愛』をモットーにして物理や化学に立派な実験室や実験設備が設けた。他方,当時心理学を担当していた黒田亮は,心理学の設備が皆無に等しいことを憂い,その整備に尽力した。

 大正12年に創立の長岡高等工業学校の初代校長福田為造は,『技術学校と大学の違いは数学,理科,語学の基礎学の教育にある』ことを建学の指針として理科教室の充実を図った。この理念に裏付けられた教育は長岡高等工業学校から多くの逸材を輩出した。こうした旧制学校の教育理念を振り返り,今後の教育の方向性を展望してゆきたい。

 

 旧制学校時代の実験器具等の大きな特徴は,器具の構造を直接見ることが出来ることにある。しかも,1つ1つが当時の職人技が見て取れるものばかりである。我々の世代の多くはこうした実験器具に触れる中で強く心惹かれまた創造力を培ってきたように思われる。こうした器具に触れることだけでも新たな感動が味わえるのではないでしょうか。

 こうした観点からも,単に展示するだけではなく,「生きた資料」として保存して行くことを構想の基幹に据えている。

 「生きた資料」の展示公開には「展示室」だけでなく,簡単な実験ができるような「実験室」の併設が是非とも望まれる。現存の多くの実験器具を用いて,『物理のしくみ』が分かるような実験テーマを工夫したい。この実験室には机,棚等も旧制時代のものを生かし,実験台ではテーマ別の実験が出来るようにしたいと考えている。この施設は小中学校生や高校生また一般の利用希望者を受け入れるだけでなく,全学共通科目(いわゆる教養科目)の物理実験や専門科目の学生実験の一部としてもその利用を検討したい。いわゆるブラックボックスの無い実験器具を用いた物理実験は新潟大学の教養科目としてもユニークなものであり,特に基礎能力の育成や創造力の肝要に寄与できるものと思われる。

 この施設の様子は,ホームページ等を活用した資料公開を含め,公開講座や小中高の学校からの実験の要望に対しても応えられるようにしたいと考えている。

 

 

W まとめにかえて

 現存する旧制学校時代の実験器具・装置は購入された物品のごく一部である。大半は狭隘さや施設移転や改組の中で廃棄処分されたと聞いており,現有の資料はそうした荒波にあって「歴史的遺産」として後世に残したいとするこれまでの関係者の継承の熱意と努力からなるものである。

 保存点数や保管状態からみた場合,新潟大学が保管する資料は旧制三高や旧制四高の資料を受け継ぐ京都大学や金沢大学の資料と比べても遜色がないと思われる。特に,旧制三高の資料は 1.保存点数が多いこと,2.歴史が古いこと,3.関連資料が豊富であること,から日本でも屈指の資料として広く知られている。それらは第三高等学校の歴史を物語るとともに,日本の近代科学史を明らかにする貴重な歴史資料である。

 

 新潟大学が保管する資料は,京都大学の「旧制三高」のそれには遠く及ばないが,「旧制新潟高等学校と旧制長岡高等工業の両学校の間で類似・共通する物品が極めて少ない」ということから,旧制の高等学校の物理教育の理念と旧制の高等工業学校の理念に差異があったことを想定させるものである。こうした観点から資料を見直した場合,旧制の高等工業学校に関する資料は全国的にも少なく,また,同時代に創設された旧制高等学校の教育理念との比較検証を行う上で貴重な資料群と思われる。是非とも,これらの資料の展示・管理保管が継続できることが望まれる。

 

 

追記:

このコーナーはWeb「http://h-lab23.gs.niigata-u.ac.jp/~museum/」でも公開しています。