Museum of Niigata Univ. Phys. & Eng.

はじめに

 新潟大学の旧制学校時代の『教育の理念』を今日につたえる資料がここに展示する「実験器具」です。ここでは,現存する資料を次の4つに区分して整理しています。この冊子は展示資料の紹介を目的に編集したものです。

@「旧制新潟高等学校の心理関係の資料 約 38点」 人文学部心理管理 (鈴木)
A「旧制新潟高等学校の物理関係の資料 約100点」 旧教養部物理管理 (本間)
B「旧制長岡高等工業学校の物理関係の資料 約170点」 工学部旧共通講座管理(原田)
C「同高等工業学校の機械要素部品関係の資料約17点」 機械システム工学科管理 (新田)

 これら旧制学校時代の実験器具の特徴は,その構造が見て取れることにあります。しかも,1つ1つが当時の職人技を結集したものです。先人はこれらの器具から多くを学び今日の科学・技術を育ててきましたが,この力は今日でも褪せてはいません。これらの器具に触れることで,ハッとするような着想や新しい工夫が得られるのではないでしょうか。

 私たちは,また,これらの資料を整理することで,旧制新潟高等高校と旧制長岡高等工業学校の教育の理念と目標を歴史的に見直し,現在に至る教育の理念の変遷を調べ,将来の方向性を展望したいと考えています。すなわち,大正8年創立の新潟高等学校の初代校長八田三喜は,『自由,進取,信愛』をモットーにして物理や化学に立派な実験室や実験設備を設けました。他方,当時心理学を担当した黒田亮は,心理学の設備が皆無に等しいことを憂いその整備に尽力しました。大正12年創立の長岡高等工業学校の初代校長福田為造は,『技術学校と大学の違いは数学,理科,語学の基礎学の教育にある』ことを建学の指針として理科教室の充実を図りました。そして,この理念に裏付けられた教育は長岡高等工業学校から多くの逸材を輩出してきました。こうした旧制学校の教育理念を振り返り,今後の教育のあり方が探れればと期待しています。

 新潟大学が保管する資料は,資料点数からは京都大学の「旧制三高」には遠く及びませんが,「旧制新潟高等学校と旧制長岡高等工業学校の両学校の間で類似・共通する物品が極めて少ない」ことが分かってきております。このことは,旧制高等学校と旧制高等工業学校の教育に違いがあったことを示唆しています。こうした観点から資料を見直した場合,旧制高等工業学校に関する資料は全国的にも少なく,また,同時代に創設された旧制高等学校の教育理念と比較検証を行う上でも貴重な資料群と思われます。

 私たちはこれら資料を展示するだけでなく,現存する実験器具を使った公開実験テーマを工夫したいと願っています。また,このコーナーの什器類は当時のものですので,レトロな雰囲気もお楽しみください。
なお,詳細はhttp://hlab.eng.niigata-u.ac.jp/museum/ で暫定公開しています。